2008.10.06
ミツバチの蜜 - 「匹見再発見」 34

網つき帽をかぶり、ゴムかっぱに手袋で身を固め、蜜をたっぷり蓄えた巣に包丁を入れる。小さな六角形の部屋が並んだ巣は板状で、その「板」が縦になって何枚も並んでいる。その板をひとつずつ切り取っていく。
巣をすべて取らずに半分ほど残しておけば、ハチたちが巣を復元する。ただし、寒い時季になると蜜が固まって採取しにくくなるとのこと。
桶に入れられた巣からは、すでにトロリとした蜜がこぼれ始めている。ニホンミツバチの蜜は「百花蜜」とも呼ばれ、数ヶ月をかけてたくさんの種類の花から集められたもの。さっぱりとしているが、どこか複雑な味わい。
物資の乏しい時期には貴重な甘味だったろう。餅につけたり、そば粉などをかいて食べたりしたという。蜂蜜は縄文の時代から人に利用されてきたというから、縄文銀座と呼ばれる匹見での利用の歴史も相当に長い。
現在でも、山際の家の裏などに、木の洞を使った巣箱がいくつも置かれている光景を見かける。こうして、人の暮らしの中に溶けこむことで、ニホンミツバチの数も安定してきたという。
しかし今、ハチ飼いの技術の継承は途絶えがち。クマによる被害なども増え、ただでさえ貴重な蜜はますます身近なものでなくなりつつある。
一度味わったら忘れられない、豊かな野山に咲く花から少しずつ集められた自然の恵み。もうしばらく楽しむことができるといいのだが・・・。
写真:蜜がたっぷり詰まったニホンミツバチの巣
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2008年10月5日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
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