ひきみの清水 - 「匹見再発見」 5
西中国山地の懐に抱かれた匹見は、匹見峡に代表される渓谷美が自慢だが、実は清水が至る所からわく「水のまち」でもある。ブナなど広葉樹林に降った雨は地中にしみ込み、天然の浄化作用で良質の水へと生まれ変わる。
特産ワサビをはぐくんでいるように、豊かな水資源は住民の暮らしを支えている。
各集落では、隣近所が共同で山水を引き込み、飲料水など生活用水として使った。上水道の整備で、昔のような光景はさすがに減ったが、地域によっては清水が「命の水」になっている家庭はまだまだ多い。
二年前、匹見総合支所が中心となって「ひきみの清水」選定に着手した。地域住民から寄せられた名水情報を頼りに、まず二十四カ所を候補選定。最終的には使いやすさなどを基準に八カ所を選び、昨年暮れに無料取水場の標柱(地元の凝灰岩採用)を設置した。
選定では水質検査も実施した。その結果は、「甘い」「まろやか」などの指標となるカルシウムやマグネシウムなどが多く含まれ、飲みやすさを演出していることが分かった。
良質な清水の評判は徐々に広がり、今では車にポリ容器を積み込み、遠方からやって来るファンも珍しくない。「清水で入れたコーヒー、清水で炊いたご飯は最高!」。そんな声を聞くたびに、目尻が下がる。
二十一世紀は「水の世紀」ともいわれる。地球規模で進む砂漠化は水資源さえも奪う。
その意味でも、郷土の宝でもある水資源を守り、後世の人々に残す努力は欠かすことができない。
ひきみ学舎では、この大切な地域資源を紹介する「ひきみの清水マップ」を作成予定だ。
写真:二ノ代の清水。匹見峡トンネル出口から数百m、山側にわき出す。水量も豊富で、夏場でも枯れるることはない
(文・写真 / 河野敏幸・田代信行)
※この記事は、2007年8月12日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。