2008.12.15
火のぬくもり - 「匹見再発見」 39

さすがに、毎日の煮炊きにまで薪を使っているところはほとんどないだろうが、ほんの数十年前まではそれが当たり前だった。必要であればいつでも、自在に火を使いこなす人が、今でもたくさんいる。
ガスや石油に頼らない「火」は、普段の生活ではなかなか接する機会がない。しかし、このめらめらと燃える火は、なぜか人の心をひきつける。そんな火を楽しめる懐の深さが匹見にはある。
例えば、野外活動で暖をとったり料理をしたりする焚き火。煙にむせて涙が出るのもかまわず、おとなも子どもも周りに集まり薪をくべる。パチパチ、シュウシュウという木の燃える音が、さらに気分を盛り上げる。
じんわりとしたぬくもりのうれしいのが、炭火だ。最近ではバーベキューで見かけることがほとんどだが、火鉢や囲炉裏でかっかと赤くなっているさまは、見ているだけで暖かい。
薪ストーブも人気が出てきているようだ。薪を準備する手間を差し引いても、一度使い始めたら、その暖かさを手放せなくなるという。
匹見では以前、家の背戸に薪用の山をもち、毎年一区画ずつ伐っては燃料にしていたと聞いた。現金収入を得るために大量の炭を焼く技術をもち、町外に広く出荷もしていた。
一度は廃れてしまった、そんな「里山のエネルギー」だが、時代はひと巡りし、近ごろでは「バイオマス燃料」として注目を浴びている。
写真:体や心をじんわりと温めてくれる炭火
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2008年12月14日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
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2008.12.01
三葛集落 - 「匹見再発見」 38

山間、高冷という土地から、古くからワサビ栽培が盛んだ。また、昭和30年代までは農業を中心に、木材搬出・製炭などの山林産業を活計としてきた。
当時は40数軒あったものが、今では32軒に減少している。しかし、他の小字単位の集落に比べれば、その過疎比率は低い。これはワサビ栽培に適した地であることによる。
当集落は「平家伝説」をはぐくむ隠地だが、川釣りや登山の愛好者はもちろん、「ひっそりとたたずむ山村風景がよい」と訪れる人が最近少なくない。さまざまな社会病理を生む都会のオフィス街から逃れ、自然豊かなこうした地で心を癒そうとする志向の表れだろうか。
かやぶき家も見られなくなったが、それでもトタンで覆った原形の家屋は少なからずある。原風景とはいえないとしても、今も屋号が通用し、本家を中心に分家が点在するといった屋敷取りの形態などには、一昔前の風景を垣間見ることができる。
史跡では戦国期の居館跡や五輪石塔、宝きょう印塔など、当集落が境界地だった遺産も見られる。また、木地師が逗留した地でもあり、、天狗を祀ったといわれる狗院社は珍しく、山の民俗誌も豊かだ。
高齢化なども相まって、まさにスローライフの世界。六調子系の神楽が遺されていたり、特異な風流(ふりゅう)系の「志賀団七踊り」が伝承されている。
観光の視点が多面的に変化しつつあるなか、三葛も注目を浴びてよいスポットの一つといっていいだろう。
写真:一昔前の風景を垣間見ることができる三葛集落
(文・写真 /渡辺友千代)
この記事は、2008年11月30日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
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