ムカデ祭る八祖さん - 「匹見再発見」 25

例えば、猿を祭った「猿王さん」、女性のしもの病気に効くという「おはいたさん」、耳の聞こえが良くなるという「ごくうさん」などがある。
中でもムカデを祭るという八祖(はっそう)さんは珍しい。その八祖さんは町内の匹見の半田、紙祖の元組、道川の元組の三地区に祭られており、いずれも「ムカデの天敵であるニワトリは飼ってはならない」という伝承がある。
ムカデは多くの足をもつ節足動物で、5~10数センチあり、夜行性、昆虫やミミズを食べる肉食動物である。噛まれるとひどい痛みをともなうが、古くから強壮剤、切り傷などの漢方薬として使われてきたらしい。
そういった俊秀・効果性などがあり、お金を「オアシ」というが、その多足ということから商売人、芸能者に喜ばれたりした。そしてナメクジとの競争という民話に登場したり、特に田原藤太のムカデ退治は有名である。
一方では、様態などが鉱山の窟穴(くけつ)に似ているとともに、またそういった場所にムカデは生息していることが多いことから、古くから鉱山関係者に信仰されてきたのであった。
ムカデを祭るといった奇怪きわまりない信仰ではあるが、その根底には中世末期から近世期にかけて営まれてきた銅山・たたらなどの鉱山関係者の信仰の残存ではなかったか。
6月7日、そんな匹見の小さな神仏をめぐる「路傍の神仏を訪ねて」が行われる。問合せ・申込みは匹見上地区振興センターまで。(電話0856・56・1144)
写真:道川地区の元組にある「八祖さん」
(文・写真 /渡辺友千代)
この記事は、2008年5月24日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
山菜の季節 - 「匹見再発見」 24
早春、雪が消えるのを待ちきれないように顔を出すフキノトウ。山菜の季節は、すでにここから始まっている。その苦味は、たしかに春の到来を感じさせるが、本格的に山菜を楽しめるのは、山が新緑にうっすら染まる時季からだ。
フキノトウに続く春の味覚といえば、やはり「うでぢか」。匹見ではハナウドのことを指し、新芽を広げたところを採る。ごまあえや白あえの独特の風味は絶品で、ファンも多い。
天ぷら材料の代表はタラの芽。ウコギ科タラノキの新芽を大事にかき採ってくる。同じウコギ科のボカ(コシアブラ)の芽は、最近人気が出てきて、人によっては、こちらの方が香りがよいと好んで食べる。
木の芽では、以前はリョウブの若い葉をご飯に炊き込んでいたとのことだが、こちらは最近、ほとんど見かけない。
おなじみの山菜といえば、ワラビやゼンマイ、フキ、ウド、タケノコなどいろいろあるが、いずれもひと手間、ふた手間の下ごしらえが必要だ。ことに、ゼンマイなどは干したりもんだりを繰り返し、口に入るまでには何日もかかる。
また、これらのよく利用される山菜というのは、乾燥や塩漬けなど保存の方法もよく知られ、夏から秋、ときには翌年の冬に料理となって出されることもある。
山菜は大切な保存食であり、換金のための産物という面も持ち合わせていた。が、結局、山菜採りの魅力は、そのこと自体が「楽しい」ということだろう。寒さの緩んだ春の野山をゆくうれしさ、気持ちよさ。
一部の有毒なものに気をつければ、多くの植物が食用となる。今まであまり目を向けていなかったもののなかに、隠れた宝がふんだんにある。
写真:野山で採れた山の幸
(文・写真 /田代信行・田代祐子)
この記事は、2008年5月10日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。