新緑のころ - 「匹見再発見」 23
匹見の里を桜が華やかに彩り、山に真白なコブシ(タムシバ)の花が咲けば、季節は加速度をつけて新緑のシーズンを迎える。
雪の多い厳しい冬を越えてきただけに、ぐんぐんと緑を濃くしていく風景は晴れ晴れとして、住民をほっとさせる。と同時に、農作業も本格的に始まり、そわそわと落ち着かない。
少しずつ、水の張られた田んぼが増え、畑には緑がにぎやか。コブシが多く花をつけると、その年は豊作という。今年のコブシは実に見事な「咲きっぷり」だったから、収穫が楽しみだ。
もえぎ色に染まる新緑の山は陽光にまばゆく輝き、風が吹くと山を銀色の波が渡っていくようだ。その風に乗り、すがすがしい「緑の香り」もやってくる。
こんなウキウキするような風景の中を、車で素通りするのはもったいない。五感をじゅうぶんに使って、のんびり歩きながらこの季節を楽しむのがおすすめだ。
里を歩けば、田んぼの上をツバメたちがツイツイと飛んでいく。起こした畑の土のにおい。そこかしこで水の音がしている。カジカガエルの声が聞こえるのも間もなくだ。
新緑の明るい山懐に入り込んでみる。大きな深呼吸をすれば、もう山の一部になったかのよう。オオルリなど野鳥のさえずりに包まれる。
木の若葉には緑だけでなく、柔らかな赤、橙(だいだい)、黄などの色がどこかに含まれ、落ちてくる光は目に優しい。草木の花も豊富な時季だから、歩くペースも自然にゆったりとなる。
五月三、四の両日行われる「匹見峡春まつり」。いくつかある会場を、散歩がてらに巡ってみるのも楽しい。
写真:匹見の新緑はこれからが本番
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2008年4月26日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
木のパズル - 「匹見再発見」 22
匹見峡温泉やすらぎの湯の隣に、ウッドパークがある。益田産業高校の旧匹見分校を大改装したもので、匹見上地区振興センターも兼ねている。
実はこの施設が「匹見博物館」とでも言うべき役割を担っており、ここに来れば何でも分かるようになっている。その中でも、特別のスペースを与えられているのが、パズルのコレクションだ。
世界中から集められたパズルは、見る人を驚かせる。中世ヨーロッパの貴族のものから、分子モデルに見まがう現代の複雑な立体パズルまで、あらゆるものが展示してある。
かつて匹見では毎年パズルコンペが行われ、ここで作られる木製パズルは全国を席捲していた。知る人ぞ知る「パズルのメッカ」だった。
匹見の豊かな木の資源を活かそうと始められた木製パズルの生産は、芦ヶ原伸行さんの指導のもと、次第に産業の一画を担っていった。だが、会社が倒産し、熱病が去るように「パズルのメッカ」の名声も聞こえなくなってしまった。
その後、木製パズルはどうなったか。実は今でも、匹見のパズルへの愛情は、全国のファンの間に根強く残る。そして、それに応えるだけの技術力を身に付けた生産スタッフが、今も生産・販売を続けている。
自作のパズルを製品にしてもらった。「こんなものを」と頼まれて、それを実際に製品として造り上げる技術には、実力を兼ね備えた信頼感がある。
気負いなく作り続けられる匹見の木製パズル。ウッドパークに展示される世界のパズルと会わせ、「再発見」されるべきその魅力は、今だ色あせていない。
写真:世界のパズルのコレクションを展示し、楽しめるウッドパーク
(文・写真 /齋藤正明、田代祐子)
この記事は、2008年4月12日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。