ひきみ秋の七草 - 「匹見再発見」 8
9月も半ばをすぎ、田の稲はつぎつぎ刈り取られる。草むらでは、さまざまな虫の声がにぎやか。春の華やかさとは異なる、渋い魅力をそなえた秋の草花も咲き始める。
万葉の歌人・山上憶良が詠んだ歌に由来する秋の七草は、ハギ、ススキ、クズ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウ、ナデシコ。草刈り場が減り、匹見でもこんな花々が咲き乱れる花野は少ない。
匹見の秋の花は、林下に、水辺に、ひっそり咲く風情がよい。好きな秋の花、ひきみ版「秋の七草」を選んでみた。
まずは、アケボノソウ(曙草)。湿り気のある谷筋の林道脇などでよく見かける。五つに分かれた白い花びらの斑点を、山や夜明けの星に見立てた命名。この花に限らず、植物に名前をつけた昔の人たちのセンスのよさには感心する。
ミズヒキ(水引)もそのひとつ。上半分が赤、下が白い小さな花を、穂状にたくさんつける。その様子を、祝儀袋の紅白の水引に例えている。
ツリフネソウ(釣舟草)は、花器の釣舟が名前の由来。茎からぶら下がった紅紫の花の姿は、一度見たら忘れられない。
ツルリンドウ(蔓竜胆)の繊細な薄紫色もよい。晩秋には予想外に大きな赤い実をつけ、蔓(つる)を絡ませた草木の首飾りとなる。
アキチョウジ(秋丁子)は胴長な紫色の花をつけるシソ科の植物。秋の遊歩道脇は、たくさんのシソ科の花で彩られる。
秋はキク科の花、いわゆる野菊が多い季節でもある。なかでも、アキノキリンソウなどの黄色い花は、小春日和の陽だまりのようだ。
最後は、ダイモンジソウ(大文字草)。渓谷の岩場に根を張り、「大」の字に見える可愛い花をつけた姿は、清流の里・匹見にふさわしい。
ほかにも紹介したい花はたくさんある。匹見に足を運び、花それぞれの魅力を楽しんでほしい。
写真:アケボノソウの花。花弁の黒紫の点を夜明けの星にたとえた、といわれている
(文・写真 / 田代信行)
※この記事は、2007年9月23日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
三ノ滝 - 「匹見再発見」 7
国道191号の道の駅「匹見峡」から約2キロ上流に、奥匹見峡の入り口がある。遊歩道は入り口からさらに先にある駐車場から整備され、全長1キロほど。距離は短いが、素晴らしい自然に触れることができる。
奥匹見峡の遊歩道を歩く醍醐味(だいごみ)は、見事な滝に加え、ほどよい長さと、険しさにある。自然林の大木の下、深山に分け入っていく感覚が味わえる。
およそ500メートルの地点で急な上り坂になる。ここまで来ると、滝の音が聞こえてくる。小龍頭だ。滝の上から滝つぼをのぞき込めるが、かなりの度胸がいる。
近くには、半世紀を経てなお頑張っている、簡易な休憩所がある。この先に、目指す三ノ滝(大龍頭)がある。ただ、行き着くには、谷川を渡らなければならない。水かさを見極め、石や岩を伝って歩けば靴をぬらすことはないが、滑りやすいので要注意だ。
渡りきると「鹿の背」が目前に迫る。古びた鉄製の階段を息を切らして上ると、途中、2本の古木が合体している夫婦木と出合う。「もう少しだ」と励ます。と、次の瞬間、思わず息をのむ光景が広がる。
三ノ滝は、実に見事な滝だ。高さ53メートル。白亜紀古来の断層谷を流れ落ちる様は、まるで白く輝く一条の絹帯のよう。
今から50年前、小学生だったころ、三ノ滝の高さを測るため、入山した父親や集落の人たちに同行したことがある。
当時の記憶では、35メートルだったが、話題づくりのためだったのだろうか、数字を逆さにして53メートルと記録されたように思う。
どうしても気になって仕方がないため、この7月、巻き尺を携えて入山。滝の上から滝つぼに向かって垂らしてみたところ、数字は「44メートル」を示した。
あらためて三ノ滝を眺めると、立った位置でずいぶん高さの感じが違う。35メートルに見えるときもあれば、44メートルより高いように見えるから不思議だ。
足元にころがるシバグリやトチの実を手に、勇壮な三ノ滝に本当の高さを問いかけた。そのとたん、滝の主から諭された。「何の意味があるの?」と-。
写真:立つ位置によって、高さが違って見える三ノ滝
(文・写真 / 齋藤正明)
※この記事は、2007年9月9日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。