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2009.10.05

わら蛇神事 - 「匹見再発見」 56

わら蛇  神社・寺院などの信仰の建築物には、よく龍や蛇を装飾化したものを見かける。沼などに棲み、しかもたけだけしく飛行するという想像上の龍は信仰の対象として納得できるが、グロテスクな蛇についてはふにおちない。
 しかし、蛇は縄文の古い時代から信仰の対象物であったらしい。脱皮を繰り返す様から不死の動物としてとらえられたり、またクネクネと歩む姿が流に似ていることから、神の化身ともとらえられたりした。といえば、田耕作にとっては不可欠である一方で、洪をひきおこす恐ろしい存在でもある。後者の事例は、さしずめ出雲神話の八岐大蛇といったところであろうか。
 匹見町内石の田原大元神社では、長さ約6m余りの稲わらで蛇、あるいは龍形に模したものを作り、背後の古椿に巻きつける「わら蛇神事」という祭りが伝えられている。もとは八朔(はっさく)に行われていたものだが、今では新暦の9月2日に行われている。
 八朔といえば穂掛け行事、あるいは二百十日という台風シーズンを迎えて、諸方では風祭りが行われていることなどからみて、豊作頼みの感が強い。こういった「」との関係から、龍蛇(りゅうだ)形のものを祭り上げて柔和させて災害をさけ、豊穣を祈ったのだろう。
 こうした意義ある神事も、以前は田原地区の3世帯に、本地から他方に転出した1世帯が加わった計4世帯だけで守られ、その後、一世帯が減ってほそぼそと伝承していた。
 しかし数年前からは、津和野町日原から古く伝承されたという故事にちなみ、日原郷土研究会の協力を得て伝承されていると聞き安堵(あんど)する。
 祖先たちが残してくれた、この貴重な文化遺産が、いつまでも続かんことを祈りたいものである。

 

写真:ご神木に巻きつけられたわら蛇

(文・写真 /渡辺友千代)


この記事は、2009年10月4日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。

 


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2009.06.22

水の国 - 「匹見再発見」 50

田の間を散歩  梅雨入りを前に、匹見ではすっかり田植えも済んだようだ。「これでまずは安心」と、泥落としでひと段落つけた農家もあったことだろう。
 4月、少しずつ、あちらこちらの田にが引かれ始める。それまでタネツケバナなど咲いていた場所が、みるみる一面の「の国」へと生まれ変わる。これだけの変化だ。心なしか、空気も湿り気を帯びてくるよう。
 毎年繰り返されるこの変化を、たくさんの生きものが待ちわびている。
 まずはカエルたち。ツチガエルやアマガエル、トノサマガエル、シュレーゲルアオガエル…。ずいぶん早い時季から鳴きはじめ、気がつくと夜中の大合唱になっている。5月の終わりには、白い泡に包まれたモリアオガエルの卵塊が目立つようになり、まもなく梅雨入りの気配。
 鳥の姿も多い。オシドリが泳ぎ回って何か探している。幼鳥を連れたアオサギが、じっと獲物をねらっていることも。ツバメが飛びながらをすくって飲んだり、虫をねらってツイッと宙を切っていくさまは、見ていて気持ちがよい。
 そんな「の国」の風景は、人も引きつける。田の間を歩けば、イネの小さな苗が風にそよぎ、面は山や空を実物以上に輝かせて映している。
 そんな晴れやかな景色から、梅雨時季のやや重いしっとりした雰囲気への変化もまたよい。うっとうしいと感じることもあるが、滴をたくわえた木や草の風情はみずみずしい。何より、この時季の雨がその後の事情を左右する。
 今年はまだ雨が少ない。川にも今ひとつ元気がない。農作物のためにも、そろそろ適度なひと雨が欲しいところ。
 梅雨が明ければ、ますます水辺が恋しい季節がやってくる。

 

写真:日の光を受け止める水をたたえた水田。散歩が気持ちいい

(文・写真 /田代信行)


この記事は、2009年6月21日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。


2008.09.21

沢登り - 「匹見再発見」 33

心地よい緊張感の沢登り  9月も半ばを過ぎ、朝晩の空気はひんやりとしてきた。夏の間、あちらこちらで見られた、川で遊ぶ子どもらの姿はさすがにない。シーズンも終わりに近づいたアユ釣りの風景があるくらい。
 そんな匹見の川を、もうしばらく楽しめるのが「沢登り」だ。服装、足元、装備をきちんと整え渓流をさかのぼる。
 最初はの冷たさに震えあがるが、淵を泳ぎ、岩をよじ登り、急な流れに逆らって歩くうち、体は温まってくる。ウェットスーツを着れば、秋が深まった時季でも大丈夫だ。
 匹見を訪れた人の多くは、豊かな自然を背景にした、美しい川の風景を魅力のひとつに挙げる。なかでも、沢登りなどどっぷり川につかり全身で自然を楽しむことが好きな人たちは、口々にこの環境を褒める。
 まず、森と岩と清流が織りなす渓谷の造形美がすばらしい。さらに、人の暮らしにごくごく近い場所で、自然のままの環境を比較的安全に楽しむことができる。表・裏・前・奥の各匹見峡はその代表だろう。
 知人に誘われ、裏匹見峡で沢登りを初体験してきた。
 普段は遊歩道から眺めるだけの流れに、ざぶざぶと入っていく。の冷たさに一瞬ひるむ。次第に川底に足が着かなくくなり、ライフジャケットの力を借りてゆっくり淵を泳いでいく。
 夫婦淵。手がかりの少ない岩をよじ登る。足が滑って力が入らない。みんなが助けてくれる。登りきると肩で息をしている。気持ちいい。
 わざわざ急流に立ち向かう人、天然すべり台を楽しむ人、岩に張りつく人、それぞれがゆっくりと上流を目指す。
 川から眺めるいつもの山は、見慣れぬ姿でその魅力を放っていた。

 

写真:心地よい緊張感が堪能できる沢登り。大自然の中に身を委ねる

(文・写真 /田代信行)


この記事は、2008年9月20日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。


2007.08.13

ひきみの清水 - 「匹見再発見」 5

二ノ代の清水 西中国山地の懐に抱かれた匹見は、匹見峡に代表される渓谷美が自慢だが、実は清が至る所からわく「のまち」でもある。ブナなど広葉樹林に降った雨は地中にしみ込み、天然の浄化作用で良質のへと生まれ変わる。
 特産ワサビをはぐくんでいるように、豊かな資源は住民の暮らしを支えている。
 各集落では、隣近所が共同で山を引き込み、飲料水など生活用水として使った。上水道の整備で、昔のような光景はさすがに減ったが、地域によっては清水が「命の水」になっている家庭はまだまだ多い。
 二年前、匹見総合支所が中心となって「ひきみの清水」選定に着手した。地域住民から寄せられた名水情報を頼りに、まず二十四カ所を候補選定。最終的には使いやすさなどを基準に八カ所を選び、昨年暮れに無料取水場の標柱(地元の凝灰岩採用)を設置した。
 選定では水質検査も実施した。その結果は、「甘い」「まろやか」などの指標となるカルシウムやマグネシウムなどが多く含まれ、飲みやすさを演出していることが分かった。
 良質な清水の評判は徐々に広がり、今では車にポリ容器を積み込み、遠方からやって来るファンも珍しくない。「清水で入れたコーヒー、清水で炊いたご飯は最高!」。そんな声を聞くたびに、目尻が下がる。
 二十一世紀は「水の世紀」ともいわれる。地球規模で進む砂漠化は水資源さえも奪う。
 その意味でも、郷土の宝でもある水資源を守り、後世の人々に残す努力は欠かすことができない。
 ひきみ学舎では、この大切な地域資源を紹介する「ひきみの清水マップ」を作成予定だ。


写真:二ノ代の清水。匹見峡トンネル出口から数百m、山側にわき出す。水量も豊富で、夏場でも枯れるることはない


(文・写真 / 河野敏幸・田代信行)


※この記事は、2007年8月12日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。


2007.05.25

匹見の清水 表匹見峡編

 「ひきみの清水」として選定された8か所の場のうち、表匹見峡の2か所を紹介します。


粋の清水・粋の清
 匹見峡トンネルができて旧道になった道路沿い、粋の淵の山手側に巨大な岩の下から小さな泉のように湧き出している清
 すぐ下流側の少し高いところに古い休憩所があり、周囲には何本ものトチノキが立っています。辺を好むトチノキが多いということは、この辺りの水の豊かさをあらわしているのでしょう。



温井の清水 ・温井の清水
 粋の清水やや上流の橋を渡ってまもなく、山側の岩の間からパイプをつたってきれいな水が滴り落ちています。
 昔から道行く人に利用されていたとのこと。清水は水温が気温に左右されにくく、冬でも暖かく感じられるのが名前の由来ではないでしょうか。


表匹見峡清水マップ


2007.05.25

匹見の清水 広見地区編

 「ひきみの清水」として選定された8か所の場のうち、広見地区の1か所を紹介します。

鈴ヶ嶽の清水・鈴ヶ嶽の清

 裏匹見峡の奥、国道488号線を吉和方面に向かうと左側深く落ち込んだ谷の向こうに鈴ヶ嶽が偉容をあらわします。その展望台から数十mほど先に、大きな岩の間からこんこんと湧き出している清
 数十年前まではこの奥の広見地区にも集落があり、人や馬や車が行き来していましたが、この辺りは悪所のひとつでした。近くの岩の割れ目には安全祈願の神様がまつられ、今でも小さな鳥居が確認できます。
 悪所を越えた人や馬は、この場でほっと一息ついたとのことで、「神さんの水」ともよばれていたそうです。


鈴ヶ嶽の清水マップ


2007.05.25

ひきみの清水 匹見地区編

 「ひきみの清水」として選定された8か所の場のうち、匹見総合支所を中心とした匹見地区の3か所を紹介します。


070124・岡本の清
 昔から地域の人たちの生活のなかにある湧。きちんと屋根ももうけられていて、きれいに整えられています。いちばん奥の高いところには、神様がまつられていて、年にいちどお祭りがおこなわれるとのこと。
 人が近づくと、魚の影が群になって逃げていくのがみえます。



070124_02 ・和泉堂の清
 紙祖八幡宮のすこし上流側、県道沿いのワサビ畑の片隅に、塩ビのパイプを通して湧き出ている清水。知っている人に教えてもらわなければ、なかなか気が付かないだろう場所です。



 070124_03・二ノ代の清水
 匹見地区から道川地区へと向かう県道沿い、左側に湧き出ている清水。道川方面からくると、よくわかります。以前から広く知られているようで、広島など遠方からも定期的に水を汲みにくる人も多いとのこと。
 夏は冷たく、冬はあたたかく感じるのが不思議です。


070124_04


2007.05.25

ひきみの清水 三葛地区編

 「ひきみの清水」として選定された8か所の場のうち、三葛地区の1か所を紹介します。


070125・葛谷の清
 吉賀町へぬける県道を三葛方面に向かって、樫田の集落に入る直前の右側斜面からきれいなが湧き出しています。夏、暑い時期の外仕事のさなかに飲んだこのは、冷蔵庫から出したばかりのようにきりっと冷えていました。


070125_02


2007.03.18

弟4回 益田写真連盟展‐感動! あの日あのとき


気合の入った文字が躍る案内 益田のアマチュアカメラマンの組織、益田写真連盟が主催する写真展に、ひきみ「」写真コンテストの受賞作品を展示していただけることになりました。3月15日から21日までの開催ですが、今日はひきみ学舎が会場係の当番になっており、会場であるキヌヤ益田ショッピングセンターにでかけてきました。
 下記のようなさまざまな団体が参加していて、会場に96点の作品がならぶようすはなかなか圧巻。各グループや地域の特徴が出ているのも感じられ、とても興味深い展示です。写真展のサブタイトルには「ふるさとの光と風」の言葉が使われているように、ふるさと益田の魅力を写真で表現したいという目的もあります。
 昨日までの3日間で500人以上、私が当番を担当した9:30から13:30には176人の来場者がありました。老若男女、幅広い層の方々が訪れ、とくに女性に1枚1枚の写真をじっくりと鑑賞される姿が多くみられたのが印象的でした。
作品をじっくり鑑賞する来場者 今回の写真展への参加により、写真がもつ力の奥深さを改めて実感したような気がします。ひきみ学舎でも、つづけて写真によるメッセージを活かした活動を展開していければと思っています。(報告:NT)


参加団体
全日本写真連盟益田支部、日本報道写真連盟益田支部、鎌手カメラ同好会、フォトクラブ高津川21、写俳クラブ写真部、二条写真クラブ、益田西ロータリー写友会、益田ロータリー写友会、ひきみ学舎


2007.01.19

匹見峡温泉でのコンテスト写真展示

070119 ひきみ「」写真コンテストの受賞作品を、匹見峡温泉やすらぎの湯で展示させてもらっています。玄関ロビーから浴場へ向かう通路沿いの壁です。やや位置が高めなので、うっかりすると見過ごしてしまうかもしれませんが、気がつかれたときはぜひ足をとめてごらんになってみてください。


 (2月16日をもって終了しました。ありがとうございました。)