木に会う - 「匹見再発見」 40

しかし、春から夏には生命力に満ちていた、草や虫、鳥、そして人の暮らしが息を潜めている分、この時季はとりわけ、木がその存在をアピールしているように思う。
匹見峡温泉周辺をぐるりと見回してみる。裏手にある善正寺の大きなイチョウの木が、まず目に飛び込んでくる。すっかり葉を落とした姿は、独特の枝ぶりと樹形をさらに強調し、迫ってくる。
そのすぐ隣の庭には、これも大きな二本のモミ。また、ウッドパークの三本のメタセコイアが並ぶさまも、なかなか絵になる。さらに、匹見八幡宮の夫婦榧(カヤ) -市指定文化財- やスギの大木が、境内をどこか厳かな雰囲気にしている。
雪が降ったら、林の中を歩いてみよう。しん、と静かで冷たい空間に、枝や幹に雪をまとった木。その前に立って梢を見上げれば、厳しさと同時に何ともいえないすがすがしさを感じる。
地面も雪に覆われているから、木々の姿は一層際立つ。白い世界に目をくらまされ、今にも動き出しそう。ふと、木も生きていることを思い出し、こんなにたくさんの生きものに囲まれているのだと、背筋が伸びる。
豊かな山林がほとんどを占める匹見の地。これまでずっとその恩恵にあずかってきたにもかかわらず、あまりにも身近にありすぎて、日頃はほとんど意識しない木の存在。
冬は、「木が自己主張する町、匹見」を実感できる季節だ。
写真:裏匹見峡で、雪の中、モミの木を見上げる
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2009年1月11日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
紅葉のころ - 「匹見再発見」 36

稲刈りがすみ、各地区の祭りで神楽の囃子が聞こえるようになると、朝晩も冷え込んでくる。山の緑は精彩を欠き、そろそろ衣替えの準備。きりっと冷えた朝が数日続くと、いつの間にか尾根筋に鮮やかな赤や黄が現れる。
ひと足先に、しかもより鮮やかな紅葉を楽しみたいのなら、やっぱり山登りだ。安蔵寺山や恐羅漢山周辺のブナが見られるような山が良い。白い樹幹に黄色みがかった褐色の葉のブナを中心に、「もみじ」と呼ばれるカエデ類を始めとしたさまざまな木の赤や黄、橙色、それに天然スギの緑が加わって錦を織り成す。
山といえばちょうどこの時季、夜明け前の大神ヶ岳に登ったことがある。ご来光に照らされ、次第に青さを増してくる空をバックに、輝くような見事な山の姿だった。
紅葉前線は次第に山を下り、やがて渓谷を彩るようになる。奥匹見峡を三の滝まで歩くコースは、まさに錦の秋に分け入っていくよう。滝を眺める足元の淀みには、色とりどりの落ち葉が集まっている。
裏匹見峡の鈴ヶ嶽は、そびえる岩肌にツガやモミ、アカマツなどの濃い緑が、赤や黄色を引き立たせ絶景をつくり出す。
道路から気軽に紅葉を堪能できるのが、前匹見峡や表匹見峡。表匹見峡から道川にかけての山腹は、ナラの木が橙に近い茶色に染まり圧倒的。三脚にカメラを据え、じっくりと撮影にのぞむ姿もよく見かける。
今月は紅葉ロードレースや産業祭もひかえ、匹見の山や里は、冬を迎える前のにぎわいを見せる。
写真:紅葉に彩られ、見ごろを迎えた匹見峡
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2008年11月2日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
木のパズル - 「匹見再発見」 22
匹見峡温泉やすらぎの湯の隣に、ウッドパークがある。益田産業高校の旧匹見分校を大改装したもので、匹見上地区振興センターも兼ねている。
実はこの施設が「匹見博物館」とでも言うべき役割を担っており、ここに来れば何でも分かるようになっている。その中でも、特別のスペースを与えられているのが、パズルのコレクションだ。
世界中から集められたパズルは、見る人を驚かせる。中世ヨーロッパの貴族のものから、分子モデルに見まがう現代の複雑な立体パズルまで、あらゆるものが展示してある。
かつて匹見では毎年パズルコンペが行われ、ここで作られる木製パズルは全国を席捲していた。知る人ぞ知る「パズルのメッカ」だった。
匹見の豊かな木の資源を活かそうと始められた木製パズルの生産は、芦ヶ原伸行さんの指導のもと、次第に産業の一画を担っていった。だが、会社が倒産し、熱病が去るように「パズルのメッカ」の名声も聞こえなくなってしまった。
その後、木製パズルはどうなったか。実は今でも、匹見のパズルへの愛情は、全国のファンの間に根強く残る。そして、それに応えるだけの技術力を身に付けた生産スタッフが、今も生産・販売を続けている。
自作のパズルを製品にしてもらった。「こんなものを」と頼まれて、それを実際に製品として造り上げる技術には、実力を兼ね備えた信頼感がある。
気負いなく作り続けられる匹見の木製パズル。ウッドパークに展示される世界のパズルと会わせ、「再発見」されるべきその魅力は、今だ色あせていない。
写真:世界のパズルのコレクションを展示し、楽しめるウッドパーク
(文・写真 /齋藤正明、田代祐子)
この記事は、2008年4月12日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
カメラの〝目〟 - 「匹見再発見」 19
全国各地で〝ご当地写真コンテスト〟が盛んだ。その土地に足を運んでもらいたい、地元の魅力を再発見したい、というのが主な目的だろう。
ひきみ学舎(まなびや)でも実施しており、2006年度は匹見の豊かな「水」の風景をテーマに行った。見慣れた風景さえも、カメラの〝目〟を通して生き生きと表現され、魅力を伝えた。
07年度のテーマは「木」だった。縄文の時代から山とともに生きてきた匹見にとって、「木」の風景は欠かすことができない。森そのもの、そこに息づく動植物、木材としての木、そして山の幸を活かす技術など。
ふだんあまりに身近で、かえって意識されることの少ない山や森、木。応募された写真は、どれもがそんな何げない「木」の風景を鮮やかに切り取っていた。
緑を背景にさえずる真っ赤な鳥、田んぼの脇にツタをまとってたたずむ木、紅葉の季節に楽しげな子どもたち、そして、おそらく自分で植えただろうヒノキの枝を打つ姿・・・。
何かテーマを一つ決め、あれもこれもとカメラを向けるうち、今まで見過ごしていたことにも少しずつ気付く。紅葉にも負けない色とりどりの新緑に驚き、木の器の滑らかな木目に見ほれてしまう。
そんなふうに撮影された写真は、撮った人だけでなく、それを観た人にも深い印象となって残る。その場での感動を追体験させてくれるから-。
また、写真は時間も軽く超える。古い写真は一瞬でその時代に引き戻してくれるし、記録し積み重ねていくことで、貴重な資料となっていく。
このコンテストの写真たちが、そんな匹見の財産になっていけたら、と思う。
写真:ひきみ「木」写真コンテストで特別賞(まなびや賞)に選ばれた「枝打ちをする父」
(文・写真 /田代信行、 河野波香)
※この記事は、2008年3月2日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
ひきみ「木」写真コンテスト受賞作品が決まりました
1月31日に募集が締め切られた、『ひきみ「木」写真コンテスト』(ひきみ学舎主催、益田市後援)の応募作品の審査がおこなわれ、あわせて10点の作品が選定されました。審査委員は、島根写真作家協会会員の吉崎佳慶さんにお願いしました。
応募者数は22名、応募点数は67点でした。 ご応募くださったみなさま、本当にありがとうございました。
各賞の受賞作品と受賞者は、以下の通りです。
最優秀賞 「叫び」 福原純孝(益田市)
優秀賞 「纏(まと)う」 西坂千春(益田市)
「叫び」 前田 修(匹見)
「匹見っ子」 水野博充(益田市)
特別賞 「枝打ちをする父」 河野波香(匹見)
入賞 「晩秋」 入江孝美(広島市)
「山腹の春」 岩本 進(周南市)
「木陰の中の芸術家」 島田圭子(益田市)
「一休み」 寺田義紀(安芸郡)
「靄(もや)」 中間昭二郎(匹見)
受賞作品決定を記念し、以下のように受賞作品の展示を行います。ぜひ足をお運びください。
・3月1日(土)~9日(日) 「ひきみ写真コンテスト受賞作品展」 匹見上地区振興センター
・3月15日(土)~20日(木) 「益田写真連盟 第5回写真展に出品」 キヌヤショッピングセンター 3F
また、来年度以降も、さまざまなテーマでひきみ写真コンテストを開催していきたいと考えています。またのご参加をお待ちしています。