水の国 - 「匹見再発見」 50
梅雨入りを前に、匹見ではすっかり田植えも済んだようだ。「これでまずは安心」と、泥落としでひと段落つけた農家もあったことだろう。4月、少しずつ、あちらこちらの田に水が引かれ始める。それまでタネツケバナなど咲いていた場所が、みるみる一面の「水の国」へと生まれ変わる。これだけの変化だ。心なしか、空気も湿り気を帯びてくるよう。
毎年繰り返されるこの変化を、たくさんの生きものが待ちわびている。
まずはカエルたち。ツチガエルやアマガエル、トノサマガエル、シュレーゲルアオガエル…。ずいぶん早い時季から鳴きはじめ、気がつくと夜中の大合唱になっている。5月の終わりには、白い泡に包まれたモリアオガエルの卵塊が目立つようになり、まもなく梅雨入りの気配。
鳥の姿も多い。オシドリが泳ぎ回って何か探している。幼鳥を連れたアオサギが、じっと獲物をねらっていることも。ツバメが飛びながら水をすくって飲んだり、虫をねらってツイッと宙を切っていくさまは、見ていて気持ちがよい。
そんな「水の国」の風景は、人も引きつける。田の間を歩けば、イネの小さな苗が風にそよぎ、水面は山や空を実物以上に輝かせて映している。
そんな晴れやかな景色から、梅雨時季のやや重いしっとりした雰囲気への変化もまたよい。うっとうしいと感じることもあるが、滴をたくわえた木や草の風情はみずみずしい。何より、この時季の雨がその後の水事情を左右する。
今年はまだ雨が少ない。川にも今ひとつ元気がない。農作物のためにも、そろそろ適度なひと雨が欲しいところ。
梅雨が明ければ、ますます水辺が恋しい季節がやってくる。
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2009年6月21日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
ネズミ封じのツバキ - 「匹見再発見」 49
ネズミ封じのツバキの木が匹見町内の江田地区にあるということを、西田久雄氏(大正15年=1926年生まれ)から聞いた。どういう意味なのかを聞いてみると、50年ごろまで、養蚕に関係して行われていた習俗信仰だったらしい。養蚕は、カイコを飼ってマユを作らせ、糸を取る。「カイコ」の語源は「飼い子」からきたといわれる。匹見では1870年ごろから始まり、その最盛期は1910年代から40年ごろまで。50年ごろには化学繊維に押されて衰退していった。
生活の糧であったカイコは、尊称して「おカイコさん」と呼ばれた。9月ごろのものをアキコ(秋子)といい、この時期にも行われたが、多くは桑の葉が柔らかくてよく茂る、5月前後のハルコ(春子)といわれる飼育のものが中心だった。
その養蚕での天敵は、なんと言ってもネズミだった。そのため、ほかの地方では、ヘビとの縁が強かった弁天様を祀る風習などもあったと聞くが、匹見では、江田平台という場所にあるツバキが信仰の対象だったという。
ひざの高さの胴回りは直径25cmほどあり、その幹にまず糸を巻き付け(おそらく絹糸だったと思われる)、根元には灯明を燈して手を合わせ、ネズミ封じのお祈りをした、と西田氏はいう。
当時の養蚕者たちは、技術員の指導を受ける一方で、そうした古くから伝えられた習俗信仰にも頼りながら一生懸命に生きてきた。それを考えると、ただ軽く聞き流すことができない貴重な民俗誌が、そこに眠っているものだなと感心した。
写真:ネズミ封じの祭りが行われていた江田地区のツバキ
(文・写真 /渡辺友千代)
この記事は、2009年5月31日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
「山葵天狗社例祭」の季節です
毎年恒例、6月の第1日曜開催の「山葵天狗社例祭」が、今年も6月7日にとり行われます。
三葛・笹山地区のワサビ農家が中心となり、大神ヶ岳中腹にまつられた山葵天狗社(やまあおいてんぐしゃ)に、豊作と安全を祈ります。
お社前での祭祀の後は、麓の夢ファクトリーみささにて、神楽などのアトラクションが行われるとのこと。
ぜひ、お出かけください。
日時:平成21年6月7日(日)
午前8時30分より 山葵天狗社(大神ヶ岳登山道途中)にて祭祀
午前11時ころより 夢ファクトリーみささにて神楽等アトラクション、地元物産の販売、食事
匹見再発見「山葵と天狗」
http://manabiya.blog76.fc2.com/blog-date-20080608.html
匹見再発見「大神ヶ岳」
http://manabiya.blog76.fc2.com/blog-date-20080204.html
今年もやります、ひきみ写真コンテスト!!
ひきみ学舎(まなびや)では、今年も
ひきみ写真コンテストへの作品を募集しています。
今回のテーマは、昨年に引き続き「農」。
あなたが魅力を感じる匹見の「農」や「林」の風景を、写真に撮って送ってください。
応募の締切は、2010年1月31日です。
くわしい応募方法は、こちらからご覧ください。
たくさんのご応募、お待ちしています!
緑のあす - 「匹見再発見」 48
益田市匹見総合支所・匹見タウンホールの裏手に、らせんを連想させる面白い形の塔がある。昭和46年、町行造林1500ha達成を記念して建てられたものだ。旧匹見町は、昭和28年から、町直営の造林事業を行ってきた。自然林に頼った林業が盛んだったことで、町有林にも伐採跡が目立つようになっていて、山の荒廃を防ぐ意味もあった。
昭和42年には、「緑の工場構想」が掲げられた。これは、当時島根県が推進した「一町村一工場」に対し、豊かな山林をいかして財産を築き、また人口の流出もくいとめようとする「匹見町方式」の発想だ。現在、山の財産は蓄積され、事業による雇用は、私たちのようなIターン者が匹見へ入るための足がかりにもなっている。
前述の塔にかけられた碑には、この事業に参加協力した人たちへの感謝が刻まれ、同時に「豊かな緑のあす」への祈りがこめられている。スギやヒノキの拡大造林や、その後の手入れ不足による荒廃など、抱える問題・課題も多い「緑のあす」。次世代へつなぐ新しい発想が必要な時期だろう。
匹見町方式で育まれてきた「緑」は、平成の大合併を経て益田市の財産にもなった。最近注目されている森林の公益的機能からみれば、川の上流・源流域の山が果たす役割は大きい。豊かで滋養に富んだ水の供給源でもある。
匹見だけ、ではなく、益田市さらには高津川でつながる流域全体で、新たな「方式」を考え行動していきたい。すでにそんな動きが始まっているのかもしれない。
先の記念塔には、町民の福祉増進を約束する「幸せの鐘」が下がっている。「豊かな緑のあす」を願い、この鐘を鳴り響かせたい。
写真:記念塔の中に下げられた「幸せの鐘」
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2009年5月10日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
キシツツジ - 「匹見再発見」 47
今回は、薫風が心地よい四月中旬から五月中旬にかけて、匹見川の川辺や匹見峡の岩場に咲く「キシツツジ」を紹介したい。
キシツツジは、本州と四国、九州に分布する。川岸や渓谷の岩場などに生え、高さ1-1.5mになる。特に、水質の良い清流域に群生することが知られている。かつては旧匹見町の町花であり、今でも地域住民にとって大切な宝物だ。
4月下旬、国道9号線の横田から国道488号線を行くと、匹見川の下流域、猪木谷辺りから、対岸に清楚で可憐な紅紫色のキシツツジが目に飛び込んでくる。
その美しさに、思わず車を止めて見入る人が多くなるのもこのころからだ。キシツツジの群生域は、澄川地区までが最も多い。匹見市街地直前まで随所にあって私たちの目を楽しませてくれる。
新緑、こけむした岩、清流と見事なコントラストを織りなす花は「春の清流を彩る女王」と呼ぶにふさわしい。実際、匹見地区は高知県の大豊地区(吉野川)とともに、質・量で国内有数のキシツツジの名所といわれている。また、この時季は、流域の所々でヤマフジも開花を迎えている。これらの川岸の樹木にも注目して、より一層匹見の自然を満喫してほしい。
表匹見峡では、五月の連休のころ、全域がキシツツジの名スポットとなる。特に、亀ヶ淵、小沙夜淵などがよく、淵に花が映り揺らぐ様は、格別の趣があり心洗われる。カメラ持参をお勧めする。
(写真は追って掲載します。)
(文・写真 / 吉崎佳慶)
※この記事は、2009年4月26日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
ワサビ漬け - 「匹見再発見」 46
今年の花芽を使った、ワサビのしょう油漬けをいただいた。口に入れるとすがすがしい香りが広がると同時に、涙を誘うくらいの強い辛みが鼻をつきぬける。花芽の食感がまたいい。このワサビ漬けは、公民館主催の行事で地域の子どもたちが作ったもの。匹見の伝統料理を、三葛地区の「おかあさん」たちに教わりながら作って食べる。
ワサビといえば昔からの匹見の特産品だが、子どもたちにとっては、それほど身近なものではないかもしれない。調理中に立ち上る辛みが目にしみて、「もう、やれん」と音をあげた子もいたとか。
ワサビ漬けが辛くなるかどうかは、「手によって違う」のだそう。調理する人それぞれの、手順やコツがあるのだろう。実際、地域によって、またそれぞれの家によって、作り方に違いがあり、それが地域の味、家の味につながっている。
ここでは、前述の子どもたちが三葛で教わったレシピを紹介しよう。
まず、採ってきた花芽をよく洗いザルに入れる。茎を漬けるときには、適当な大きさに切っておく。また冬から春にかけて出る新芽(ガニ芽)は、柔らかく辛みも強い。
次に、たっぷりのお湯を材料にかけ、ザルを前後に強く素早く振る。「ワサビを怒らせて辛みを出す」という人も。この時に目鼻を刺激する辛みが立ち上って来る。
しょう油、みりん、酒をあらかじめ混ぜておいたものに漬け、できあがり。空気に触れると「辛みが逃げる」ので、密閉容器に入れておく。三日後ぐらいには味も馴染み、辛みも増して食べごろとなる。
ご飯に添えてよし、晩酌の肴によし、バラエティ豊かな匹見伝統の味を楽しみたい。
写真:種を採るために残されたワサビの花
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2009年4月5日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
広見の石橋 - 「匹見再発見」 45
ただし1か所であるが、五里山の山すそのセイコ谷に架かるのは、珍しく石橋で構築されたものだ。その石橋、上面にはアスファルトが張られ、しかも直線的なために、側面や下方が石組で構築されていることに気づく人はほとんどいないだろう。
施工は、明治30年代に加計の佐々木三十郎の指導で架けられたものと伝えられ、幅10.2m、長さ7.6m、高さ4m余りの当時としては比較的大型で、技巧に富んだものだ。流路口はアーチ型とよばれるものだが、恰好は釣鐘形で、幅・高さとも約3mある。
技法は、進行方向に縦型に並べる中国式のリブアーチといわれるものではなく、角錐台形のレンガ積みの欧州型といわれるものらしい。
石橋といえば、寛永11(1634)年に造られたという長崎の眼鏡橋が有名。その後、熊本を中心に九州地方に広がっていったものらしい。
匹見地方の棚田にみる石垣築地などは、近世から明治期にかけて芸北地方の石工師によってもたらされたといわれている。匹見にもこんな石橋が・・、と感嘆した。
石橋に限らず、何でも目をこらし、また目先を変えてみると、そこには新しく珍しい発見があるものだ。まさに本石橋は、匹見の、いや益田市にとっての近代化遺産といえるものだろう。
写真は追って掲載します
(文・写真 /渡辺友千代)
この記事は、2009年3月22日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
春がきた - 「匹見再発見」 44
今年は春が早いようだ。 3月1日、高津川水系では渓流釣りが解禁になり、匹見でも釣り仕度の人を見かけるようになった。年によっては、川べりに深く残る雪を踏む、寒さのなかの釣行になるが、今季はその心配はない。
岸にはネコヤナギの花が咲き、すでにハチの姿も見える。雨が多く、雪解けの水もあるのだろう、川の流れは豊かで、お日さまの下で眺めるその景色は気持ちがよい。
秋が山の上から降りてくるように、春は川べりから、谷筋からやって来る。
毎年、春一番に咲く小さな花を、沢沿いの小道に探しに出掛ける。すぐ近くで、ミソサザイがさえずっている。林の底に、小さな灯りのような花。セリバオウレン(芹葉黄連)だ。
春の、ほんの一時期にだけ花を咲かせる「スプリング・エフェメラル(春の妖精)」のひとつ。雪が消えると早速、首をもたげるように茎を伸ばし、花をつける。その様は、春の生命力に満ち力強い。
追いかけるように、マンサクやコチャルメルソウ、ショウジョウバカマなど、谷は花盛り。やがて山や里にも、一気に花が春を連れてくる。キブシ、スミレ、ミヤマカタバミ、アマナ、ヤマブキなどなど。サクラやコブシ(タムシバ)が咲けば、春も本番だ。
ただ、暖かい冬が早い春を導いてきた今年、農作物への影響もあるだろう。ワサビの花がもう咲いちゃうよ、という慌てた声や、こんな年は冷夏になるかもしれない、という不安げな声も聞こえてくる。
いずれにしても、匹見が活気づくのはこの時季から。山も川も、野も里も、ここから1年が始まるといってもいい。今年はどんな年になるんだろうか。
写真:落ち葉の下から首をもたげ、花を咲かせるセリバオウレン
(文・写真 /田代信行)
この記事は、2009年3月8日付の山陰中央新報掲載分を転載したものです。
ひきみ「農」写真コンテスト受賞作品が決まりました
1月31日に募集が締め切られた、『ひきみ「農」写真コンテスト』の応募作品の審査がおこなわれ、あわせて10点の作品が選定されました。審査委員は、島根写真作家協会理事の吉崎佳慶さんにお願いしました。
ご応募くださったみなさま、本当にありがとうございました。
各賞の受賞作品と受賞者は、以下の通りです。
最優秀賞 「田、漲る」 寺田義紀(広島・安芸郡)
優秀賞 「冬仕度」 入江孝美(広島市)
「レンコン畑」 河野波香(匹見)
「コスモスが見つめる秋」 島田圭子(益田市)
特別賞 「二人でワサビ作りました」 山根弘美(匹見)
入賞 「興味津津」 小豆澤 勝(松江市)
「雪の日」 入江孝美(広島市)
「もうすぐ田植え」 河野波香(匹見)
「収穫」 福原純孝(益田市)
「何を取りに行くの?」 山根洋子(匹見)
《審査評》 吉崎佳慶 (島根県写真作家協会理事)
総評
西中国地方随一の豊かな自然に恵まれた匹見地区は、テーマ「農業」にとって撮影材料に事欠かないナイススポットが多い。
今回も、地元を中心に県内外から多数応募があり、楽しく審査をした。年間を通して多彩に移り変わる「農」の姿を、素敵な自然を織り成した表現や農に携わる人々を表現した作品が多くて大変良かった。
欲を言えば、更に多面的に匹見独特の農をとらえた作品も欲しかった。例えば、五穀豊穣に感謝する祭事やワサビの収穫などの作品も考えられる。
最優秀賞審査評
「田、漲る」 寺田義紀
匹見地区ならではの「農」の絶景は、少なくない。この作品は、田植え前の水鏡が、あたりの新緑を映した景観であるが、神々しいまでに昇華した作品である。農家や霞を写し込んだフレーミングも見事。早朝に撮影した熱意が、功を奏した傑作。
以上
受賞作品は、まず、以下の写真展で展示を行います。ぜひ足をお運びください。
・3月13日(金)〜19日(木) 「益田写真連盟 第6回写真展に出品」 キヌヤショッピングセンター 3F
また、来年度以降も、さまざまなテーマでひきみ写真コンテストを開催していきたいと考えています。またのご参加をお待ちしています。
優秀賞、まなびや賞、入選の作品は、以下からごらんください。
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